近江商人×しがトコ SPECIAL CONTENTS

日野さんぽ

時代の最先端がここに!?洗練された暮らしを感じる「日野」の近江商人まち歩き

滋賀県蒲生郡日野町では
江戸時代『日野商人』が全国で活躍しました。
お椀や薬を売るために天秤をかついで行商へ。
1年のほとんどが出張だったため、
日野にあるお屋敷を守るのは女性の役目でした。

日野商人の仕事と、当時の暮らしぶりを知るために、
しがトコ編集部が日野町を訪ねました。

約300年の歴史を誇る日野商人のお屋敷

時が止まったような、
昔懐かしい町並みの中を歩いていると
手入れの行き届いた立派なお屋敷がありました。

正面から見ると、なんともいえないこの風格。
しみじみと眺めていたくなるこのお屋敷は、
江戸時代から続く日野商人、山中兵右衞門さんの邸宅。

現在は、歴史民俗資料館「近江日野商人館」になっています。
風にゆれるのれんをくぐって、お屋敷におじゃまします!

「どうぞどうぞ、いらっしゃいませ」
出迎えてくれたのは、館長の満田良順さん。

「さっそくですが、江戸時代になぜ近江商人が
日野から生まれたか。わかりますか?」
おもむろに話し出す館長さん。

「日野商人はね、もとは農民なんですよ。
この場所は江戸幕府の直轄領でね。規制がゆるかったので
年貢をおさめればアルバイトができたんです」

「・・・え!アルバイト!」
商売で成功した豪商、近江商人がアルバイト?
突然の展開で、思わず声が裏返る取材班に
館長さんは、優しく一声。

「まあ、お座りください」

おはなし上手で止まらない!名物館長さんの予感

授業のようなこの着席スタイルで、まだまだお話は続きます。
もとは中学校の校長先生だったという満田館長。
「やっぱり・・!」と心のなかでつぶやきながら、
着席したことの意味に気付きはじめ・・・

本業は農民だったのに、
いまで言う「アルバイト」の商売で成功した日野商人。
いったい何を売っていたのか?

「これね、見てください。
この木からお椀を作っていたんですよ」

城下町の日野には職人さんがたくさんいて、
このお椀は、日野では当たり前に作られていたのだそう。
「でも、関東の農民に売りに行くと、あっという間に売れてね」
簡単にいえば、副業で大儲けということ?!
そんなちっぽけな考えが見透かされたのか、
館長さんが、そっと資料を差し出してくれました。

商売で成功するのは、カンタンではない!!

そこには日野商人の経営理念「慎み十ヶ条」が。

  • 一、一攫千金をねらうな
  • 一、まず、謙虚な人間となれ
  • 一、「お陰様で」の心を持て
  • 一、商品はお客様へ贈る真心である
  • 一、慢心するな。原点を大切に。
  • 一、長年の信用や技術を基に発展させよ
  • 一、部下のやる気を起こす工夫をせよ

・・・心に響く言葉がずらりと。
さっきまで副業で大儲けだと鼻息荒くしていた
自分に説教してやりたい気分です。
反省しつつ、見上げた先にこんなコーナーが!

経営理念の書写体験で、乱れた心を清らかに

一攫千金をねらうな。謙虚な人間となれ。
「慎み十ヶ条」の言葉を一文字一文字、丁寧に書写します。

「謙虚な人間となれ!」
さきほどの「慎み十ヶ条」を書写します。

無心になって筆を走らせると、
それだけで癒されるから不思議です。

奥座敷に贅沢を極めた日野商人のお屋敷

「さあ、奥座敷へどうぞ」という
館長さんの案内のもと、廊下を進むと・・

驚くほど広々としたお座敷が!
「日野商人は奥座敷にお金をかけていたんですよ」

「まずここを見てください」と館長の言う「ここ」の場所がわからず
とりあえず障子を触っていると、

この障子が豪華なの??

虚ろな表情で障子を見つめている取材班に
「いやいや、これね!これ」と障子の木枠を指さす館長さん。
猿頬という作り方で、角を丸くして
柔らかな雰囲気にしているのだそう。

見えないところがとっても豪華!

そして、このふすま。よくみてください。

どこか贅沢なのか?それは、こちら!

ふすまの取っ手をよく見ると、
七宝焼きで作られています。

そして、中央にそびえる柱。
これもじつは、すごいんです。
数万本に1本しかない木を使っている貴重なモノだそうで、
なんと、この柱だけを見に全国から訪れる人もいるのだとか!

よく見ると、すごい!そんなこだわりが
随所に溢れている奥座敷を後にして、
二階の展示コーナーへ。

江戸の流行を取り入れた最先端の暮らし

関東で活躍した日野商人。
きらびやかな江戸の街で目にしたものを持ち帰り、
暮らしの中に取り入れていた展示物がずらりと!

こちらはフランス製の日傘。
当時からこんなおしゃれな物をさりげなく
取り入れていたなんて素敵です!

アメリカ製の扇風機も。これも当時の最先端のもの。

日野商人の本宅で所有されていた月琴。
象牙など最高級のものばかりで作られていたのだそう。
写真は日野商人の奥さまでしょうか。
優雅な暮らしぶりが想像できます。

女性だけで家を守るために、考えたこと

出張で家を空けていた日野商人の家は
女性たちが守っていたので、防犯対策も万全でした。

「この家には男性がいる」と思わせるように、
玄関に置いた「用心下駄」や

「のぞき窓」も。主人が留守の家を守る工夫が随所に。

日野地方は薬の産地!当時の薬がずらりとせいぞろい

お椀からスタートした日野商人。
日野地方で薬が作られていたため、
薬の行商も行っていました。

当時の薬袋がずらりと展示されています。
イラストや文字の書体などレトロな雰囲気で、
見ているだけでも楽しめますよ。

現在も日野町では製薬業が盛んですが
江戸時代、商人から医師に転向した正野玄三が
「万病感応丸」を自宅で製造したのがはじまり
と言われています。

「近江商人」が泊まった宿には三つ星の評価が!

行商で全国各地を飛び回っていた日野商人ですが、
定宿としていた宿の軒先には当時、こんな看板が。

赤い矢印をよくみると「日野定宿」という表記が。

「まぁ、いまで言う三つ星と同じ意味でしょうか」
と教えてくれた館長さん。

近江商人が選んだ宿なら間違いないという
看板をわざわざ宿に飾るのだから、
当時の「近江商人」のブランド力はすごいですね。

映画のセットみたいな建築物!「旧山中正吉家住宅」

そして「近江日野商人館」を後にして、
向かった先は、「日野商人ふるさと館」です。

ここは日野商人の代表的な本宅建築
「旧山中正吉家住宅」内を見学することができます。

中に入ってみると、なにやら美しいステンドグラスが!
のぞいて見ると・・・

大理石で作られた浴槽と
大きな窓、そしてステンドグラスの装飾!
昔の映画のワンシーンに出てきそうな

このお部屋もシックで洗練された雰囲気。
「あ~こんな家に住んでみたい!」と思わず
つぶやきたくなる優雅な暮らしぶりが伺えます。

お座敷で贅沢時間を過ごせるランチがおすすめ

このお座敷では、伝統料理の食体験ができるのだそう!
ランチがいただけるのは、残念ながら月に1度だけ。
10名以上なら予約すればいつでもお料理が食べられるそう。
詳しくは予約専用ダイヤルでお問い合わせを。

090-8456-1809(日野の伝統料理を継承する会)

本格的な日本庭園を眺めながら、
ゆっくりとお食事を楽しめる。
食べた後は横になって、うたた寝・・
なんてのも気持ち良さそうです。

手入れが行き届いたお庭を眺めて休憩したら、
そろそろ帰る時間が。

外に出ると、ちょうどさきほどのお庭の裏手に
駐車場がありますよ。この背の高い石の塔が目印。

駐車場はこんな感じでとっても広い!
車の運転が苦手な女性の方でも安心です。

駆け足で歩いたはじめての日野近江商人さんぽ。
商いで財を成した日野商人は、
江戸の街で仕入れた当時の最先端を日野に持ち帰り、
普段の暮らしに取り入れていました。

ただ、その暮らしぶりは意外にも豪華絢爛ではなく、
例えば本宅の入り口は質素に。
お金をかけるのは、お客様をもてなす奥のお座敷に。
目に見えるわかりやすい装飾やきらびやかな豪華さよりも、
見えにくい土台に惜しみなくお金をかける。
それは、日野商人の経営理念でもある「慎み十ヶ条」にも
通じるような気がしました。

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  • しがトコ編集長・亀口美穂

    ライター:亀口美穂(しがトコ編集長)
    大阪府堺市生まれ。結婚・出産を機に滋賀へ移住。住んで初めて分かった滋賀の魅力をもっと多くの人に伝えたい!という想いから「しがトコ」を運営。“自慢したくなる滋賀”をコンセプトに、子育て傍ら滋賀を練り歩く。

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